『医療の限界』 |
『医療崩壊』ですっかり有名になった小松秀樹氏による新書(bk1)。 「このまま自体が進んでいくと、結果的に困るのは医療を必要とする患者とその家族です。本書が、医療の置かれている危機的状況の理解をうながし、医療の崩壊をふせぐ一助となることを願ってやみません。」(本書はじめに より) 著者には、以前から(ちょっと過激とも思える)率直で腹蔵ない表現がまま見られましたが…、正直、こういう”患者(など非医療者)を人質に取る”ような言い回しまで必要無いのでは? 本書の基本的立場は前著と同じ。 医療崩壊の原因は、マスコミ・警察・(一部の)クレーマー的患者・さらには医療界のシステムなどにある。中でも医療に対する考え方の齟齬(死生観含む)が大きいことが最大の原因だと。 新書という体裁を採ったために、前著の主張の多くは整理されダウン・サイジングされています。ところが、それが功を奏したかどうかと言えば甚だ疑問が残ります。 分量が減ったのは忙しい人向けには良いのかもしれないのです。 ただ、その分問題の複雑性も削ぎ落とされておりますので…医療者サイドからの非医療者サイドへ「一言言わせて!」的なところばかり妙に浮きだって見えます。 この辺り、朝日→新潮と出版元も違うし編集方針も違うのでしょうけど、個人的にはこうした単純化された議論(それに、冒頭にあった挑発的文言)が医療者-非医療者の関係に必ずしもプラスに働かないと思うのですよね。 医師-患者関係の対立関係を望まないと筆者は言っておきながら、あまり積極的に歩み寄ろうとする文面には見えませんでした。 しかもこの本、色々な事例や有名な著書の引用から次節を裏付けようとされるのですが…、それらが相互に矛盾する部分も何カ所か見られました(ぉぃ。 著者が強引に自説を展開し過ぎなのか、編集者のチェックが甘いのかはわかりませんが、厳密な正確性を欠いたり、整合的でなかったり、オポチュニズムだと批判されそうなところがちょこちょこあります。 他方で、非医療者サイドの歩み寄りを求めていることは重々窺えますが(苦笑。 多少内容のアップ・デートもありますが、全体の出来の方は残念な印象です。 そもそも、前著とほぼ同じ内容で、出版社を変えてまで新書を出した理由が…私には理解不能でした。 |
by vla_marie
| 2007-12-05 04:32
| 本
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