稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』 |
面白そうだったので、以前書店で買ってみたもの。稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(NHKブックス、2006年)。読み終わったのでメモしておきます。 この本、今話題のこの2人の対談と言うことで、初刷が8月で9月に増刷とかなり好調な売れ行きだったようですね。私も初刷を買い逃して増刷を待った口です。 まず、立岩氏の所有論は、「人が自己の身体を所有したとしても、その身体を通して産み出された生産物が必ず身体を使役した人のものになるわけじゃない(そうしてもよいけど必然性は無いよね?)」というスタンスに立つそうです。立岩所有論は「自己の身体を所有していない」と解されることもあったが、それは誤りだと説明されています(33頁)。この点、私の恩師も解釈を誤っていたような…とはいえ立岩氏の『私的所有論』自体がそれほど簡潔明瞭な書物とはいえないところがあるので、誤解も致し方ないような気も…。 だから、立岩氏は所有権概念に「他者」を織り込むことを提案します。他人から見て処分してかまわないものは自分のものにして良い、と(通常とは)逆に考えるわけです。 そもそも、立岩氏の関心は、「一所懸命に働いても充分に生活が成り立たない者」はどうしたらええのか?というところにあるようです。今の所有権理解に基づく市場が前述の問題を改善できるとは、立岩氏は思わないようです。 これに対し、稲葉氏は立岩氏の関心を実効性のあるものにすべく、経済学の知識を動員して解釈・解説していますが、市場に対してシンパシーのある稲葉氏と立岩氏との間の齟齬は同書の最後まで埋まることはありません。 結局思考実験に留まっていると言われればその通りで、実効性のある提言があるわけではない本です。 個人的に、立岩・稲葉両氏のスタンスが掴めたのは良かったのですが、もともと両氏の議論に関心がない方がいきなり読まれてもそれほど楽しめない本であるような気が…。 |
by vla_marie
| 2006-11-30 22:34
| 本
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