『医療と法を考える』 |
樋口範雄先生の近著(bk1)。2007年刊。 医師も法律家も、同じ言葉を使い不確定な事実を扱い、現代を代表する二大専門家であるのになんでわかりあえないのか〜というとっぽい疑問を最初に挙げられているけれど、まぁそこで医療と法との関係を再考してみようという趣旨の書らしいです。 医師・患者関係、倫理委員会、応招義務、守秘義務、トリアージュ…扱っている問題として、今日の医事法で標準的となっているテーマは大体並んでいます。 結論から言えば、著者は「法で何でも解決するのが望ましいわけではない」というの立場から、医療者内部での自律的な倫理原則の遵守と規律の可能性を示唆・期待しています(ソフト・ローを支持)。 医師の自己規律については米本昌平氏なども20年前から提唱されてきましたが、それは医師法の改正(強制加入化)により自治的な処分権限を行使できるという枠組みの話であった…と記憶しています。ここのところで違いがあるのかどうか、本書では触れられていません。 個人的にも、そのようなプロフェッションの倫理に基づく規律が上手く機能するのであれば、それにこしたことはないと思っているのですが。 例えば、応招義務(応召義務・診療義務)について。 通説は「医業独占」と「公共性」からこの義務を導きますが、著者は、まず1).問題となるケースには初診・治療継続中・救急のものが含まれる、2).歯科医や薬剤師、助産師、獣医師も同様の義務が規定されている点に注意を促します。 著者は、歴史的背景をひも解き、現行法が「倫理的義務」の性格を強く持つことを示唆します。医療倫理をベースとして行政処分で対応しようという趣旨ではなかったかと。しかし、実定法学者は19条に法的意義を持たせるために様々な解釈論を展開してきました。 刑法学説上では業務上過失致死罪と注意義務が有力となりつつあります。一方民法上でも、判例は本来公法上の義務である19条ではあるが「患者の保護のために定められた規定であることに鑑み」また医療法1条の2から病院についても診療義務があるとされ、患者に損害のあった場合は医師に過失が推定され、「正当事由」を主張・立証しない限り損害賠償請求責任を負うとされます。 ちなみに管見では、他の学説もままありますが、(少なくとも民事上の問題については)判例と整合的に考えればこれが一般的な通説のように理解してよいかと思います。 これにつき、前述の1).の観点からして、裁判所の認めたケースが救急についてのものであるのにも関わらず、教科書では一般論として説明することに、著者は疑問を呈します。また、通説の「医業独占」と「公共性」とで義務を基礎づけるやりかたは歴史的背景や社会的事情を等閑視しているとみなします。 筆者に言わせれば、基本的にこれらは医療倫理に委ねられた部分で行政処分で対応するはずだったハズなのです。しかし、それが機能しないために法律家が理論を展開した。しかし、それもまた精緻な理論でなく問題があるのです。 とはいえ、現状19条が法的意義を持つ以上、「正当事由」についての解釈が重要になります。 この「正当事由」については、厚生省医務局医務課長回答(1955年)・医事法の教科書をベースに類型化が行なわれます(p.80以下)。 正当事由と認められる場合:①医師の不在・病気などで診療不可能/②専門外の診療で患者の了承がある場合/③休日夜間診療体制が整備されている地域で、そこでの受診を支持する場合(救急時は除く)/④勤務医が自宅で診療を求められたとき(救急時は除く)。 正当事由と認められない場合:①軽度の疲労、酩酊/②診療費の不払い/③休診時・診療時間外/④診療の必要な婆愛の往診の求め。 ただし、19条の問題が行政・刑事・民事に及ぶ以上は「正当事由」は個別に違う様相を持つと考えられるし、そもそも1955年回答が医療の職業倫理のあり方を規定する通知であったことを鑑みれば、法律論は(あまりに)一般的抽象的に見えます。 終わりに、2).の検討から、医師の診療義務はそれが生命に関わるからだと筆者は論じます(受診を断られたら行き場がない)。その上で、職業倫理による自治と自律の確立を説いています。 法律論的には、刑事罰は基本的には適用無し。損害が生じた限りで民事責任が問われることはあり得るが、基本は医業倫理と行政処罰という見解でしょう。妥当な見解のように見えますが、その中身の精査は本書では為されていません。 法学教室の連載が下敷きということで、初学者にも(非法律家にも)分かり易く、噛み砕れた文体。しかも、ウィットにも富んでいるので、誰でも面白く読めるでしょう。時事的な問題を多く取り扱っているのも好ましく、良著であると言えるでしょう。 木曜はU先生のイベントがありました。午前中別キャンパスで用事があり、遅刻してしまい申し訳ありません。>関係者各位。ちょっと、ドキドキしましたよ(汗。 本日は、ラボに積立金とか何とかいうやつで購入したプリンタが納入のため、留守番役を担当してきました。Xerox社のモノクロ・レーザー(LAN付)で、モノは信頼性が高いのかもしれません。Brotherのプリンタと同じ体裁・装丁でしたが、相互に関係があるようなので(ex.BrotherのHL-2040は、XeroxのエンジンOEMという噂)マニュアル作りも提携しているのかどうか…。 しかし、問題発生。まずHUBが不調。その上、Vista用のドライバが付属しておらずWebからダウンロードせねばならない(共同研究室は…皆Vistaなんですよ)。極めつけに、OSX10.5に正式対応していない。汎用ドライバで認識はしましたけどね。とりあえず文字は打てるのですが、画像やグラフなどのディザリングに問題が出そうな予感であります。発注するときは、ドライバのことも考えて欲しいです。 1時間で終わると思われた留守番が長大なものになりました…。 |
by vla_marie
| 2008-05-23 23:17
| 本
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