『法と遺伝学』 |
和田幹彦センセが中心となった『法と遺伝学』(法政大学現代法研究所叢書、2005年)を読了(bk1)。 出たばかりの頃に入手して斜め読みしたものの、この前雑誌で紹介記事を見たので再読。 生命倫理と法学とか、生命倫理と心理学とか、そういう領域横断系の書物はここ10年位大量に出回っているものの、欲張らずに遺伝学にポイントを絞ったのが評価された所以か?とはいえ、似たような本も何冊か所持してはいるんだけども。。。 個人的に「コレが読みたい!」と思っていた記事はPM病に関する第2章の部分でしたが…著者4名による共同執筆ということもありやや薄い印象を受けました。 事案としては、以下の通り。 ペリツェウス・メルツバッハ病(PM病)という遺伝性疾患の疑いのある子を持つ両親が、診療契約外で某クリニックの医師に相談したところ「経験上高い確立で大丈夫」とのコメントを貰う。 第二子は健常であったが、第三子がPM病に→説明義務義務違反による使用者責任を訴え、クリニックを経営している福祉法人に対して慰謝料の子の介護費用・家の改修費用等を請求した事例。 1審は慰謝料のみ認めるが、高裁は介護費用等も認めた(なお、第三子の出生や存在自体ををネガティヴに捉えるものではないとの補足あり)。両親は費用が低廉過ぎること等を理由として最高裁に上告したが、上告受理申立は不受理・棄却→高裁判決確定。 『医事法判例百選』にも載っている超有名判決です(民間医局の解説)。 この事件は、同類のケースと比べて「介護費用」を広範に認めた点がまず注目されますが、①医療契約"外"にも関わらず、医師の説明義務を肯定した点(信義則違反)、②過去のロングフル・バース訴訟と異なり、「生まれないはずだった子」が懐胎する以前での出生相談であった点、③(高裁判決で)過失相殺を適用した点など、色々特徴的なのであっちこっちで論文や書物を見かけます。 ちなみに、本書の立場は(第1章と関係して)「不確実な情報をいかにつたえるか」という遺伝学カウンセリングの重要性を説くものでした。 医学・看護系雑誌ではありがちな主張だと思いますが、あまりバリ法学系の先生はこういうコト言いそうにない気がします(横断領域を得意としている先生ならでは)。 個人情報保護に関する岩橋論文は、「現在、所謂ミレニアム指針によって研究用試料は連結不可能匿名化が為されているが、他の情報を統合すれば本人を特定可能であるかもしれない。匿名化のみでは「人格的つながり」を遮断することは出来ず、「情報と個人の人格・身体との密接な繋がりから要請される人格的なコントロールを行う」(おそらく法的な)利益についての問題をクリアできないのでは?」といった内容でした。 他にも…豊富な情報を基にした遺伝子特許に関する玉井論文、国連のクローン規制活動の裏側を独自資料をふまえて概説する和田論文など、普通のものから、生物学で法の説明を試みる挑戦的な論文まで、バラエティに富んでいますね。 翻って単著でないので内容的にややバラツキがある点や、海外引用資料が英米系に偏り過ぎている点等…色々欠点は否めませんが、安いのは助かりますね(ぉ。 |
by vla_marie
| 2007-09-27 05:23
| 本
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