デボラ・L・スパー『ベビー・ビジネス』 |
2ヶ月ほど前の朝日新聞に紹介されていたので、購入してみました、デボラ・L・スパー(椎野淳 訳)『ベビー・ビジネス』(ランダムハウス講談社、2006年)。 初めに、この本は倫理的な判断に殆ど踏み込んでいません。 IVFや代理出産、養子縁組の現況と、そこにつきまとう市場の実態を分析・検討したものです。 著者の基本路線を乱暴に言えば、以下のようになるかと。 「倫理的にどうこう言っても、子供を得ようとするこれらの活動領域に(金銭の授受を伴う)市場は存在してるんだ。しかも明快なルール無く! これらの諸技術(および制度)はバラバラなものとして発展してきたけど、実は相互に大体可能なものなんだ(ex.代理出産が認められないなら養子を取るなど)。 これらの諸技術を一括して市場に任せることも政府が禁止することもできない。また、臓器移植のように「非市場化」することも、困難だ。 じゃあ、政府が介入して、これらの取引に規制を加える(ルールを作る)のが最良だしそうすべきでしょ(規制の内容は政治的決定事項)。」 この政治的決定のプロセスについて氏は、①議論の前提となる情報へのアクセスする権利が認められること、②(医療で見られるような)平等の理念に配慮すること、③法の限界を考慮すること、④生殖技術の費用の負担を考慮すること、⑤親としての選択の限界についての討議もなすこと、を提案しています。 ちなみに、スパー氏。経済学者だけあって、なかなか言うことがラディカルです。 例えば、財産権の設定の問題。氏は、取引の規制の前提として財産権の枠組みを採用することを提案しています。精子は卵は財産権の対象なのかどうかってことが決まってないと(取引関係者は)困りますからね。 「子供は財産権の対象じゃないわ!」って人も居ますが、財産権を何に設定するか(しないか)を決定することが、却って「何が取引の対象になるのかを峻別することになる」と、論じておりました。 スパー氏の見解に同意するかどうかは別として、同書を読んで多くの日本人が驚くのは養子縁組における市場が(現実に)アメリカでは形成されている点でしょう。 実は、養子縁組に関する色々な問題(経済上の問題含む)は、アメリカでは結構大きな問題となっています。しかし、日本ではあまりこうした問題の実態がクローズアップされることは無いですねぇ。 同書で紹介されていたRainbowKidsやpreciousという養子斡旋業者のWebサイトを見ても、日本の養子とはずいぶん違う(市場化された)イメージを受けるのではないかと思います。 実は、全訳でないのが些か残念。 |
by vla_marie
| 2007-02-20 03:24
| 本
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