瀧井宏臣『人体ビジネス』 |
もう11月ですか。道理で寒くなった訳です。 帰宅して冷たい洗濯物を取り込みながら自分自身の今後を憂えております。はぁ…。 ・先月良かったこと:①議論の薄い論点をいくつか発見したコト。②学会の裏方の作業が一応進んでいること。 ・先月悪かったこと:①論文の締切に間に合わなかったコト(泣。 昨日(1日)は体力的にも精神的にも相当落ち込んでいましたが、クヨクヨしていられません! 積ん読になっていた瀧井宏臣『人体ビジネス』(岩波書店、2005)を読みました。約1年前に出版されたものです(私が購入したのは夏ぐらいですが…)。所謂「人体資源化」問題を扱ったものとしては、比較的新しいものでしょう。 >「私の考える科学とは、最も信頼のおける知の在り方、あるいは知の体系である。 自然現象、社会現象を問わず、物事の成り立ちやしくみ、機能や因果関係を解明するための最良のツールであり、物事を認識する目そのものといってもよい。」 序章でいきなり瀧井氏の科学観が語られます。瀧井氏の目から見れば、市場にせっつかされて行われる拙速な人体由来物質を利用した諸科学の研究は、狂気に映るということです。 以下、充分な議論が無いままに強行採決された総合科学技術会議生命倫理調査会でのヒトクローン胚の研究目的での作成の決定や、確からしからぬ研究データを基に行われた中絶胎児の細胞を臨床に利用したケースなどなど…様々な事例を追いかけて(主として批判的に)人体の資源化問題を綴っていくという構成になっています。 結論としては、この人体の資源化・商品化は押しとどめることが出来ないけれど、これを民主的にコントロールすることはできるだろう。それによって、資源化・商品化によって掘り崩される人間の尊厳を守っていくことができるのではないか?ということだそうです。 本人のコメントが岩波書店の方に掲載されていますので、そちらも参照されて下さい(リンク) ルポルタージュということで、基本的に足で稼いだ情報がベースになっているのですが、かなり取材が困難を極めたようです。結構既存の書籍を参照したところも多いのか、この領域に関心のある方なら既に知っていることが若干多いような気がします。関係者の方としては、口をつぐみたい気持ちも分からなくはありませんが、きちんと回答されている方々はきっと誠実なのでしょう。 個人的に「コレは!」と思ったのは、本編とは少しずれる形で<番外ルポ>としておさめられた項目、「ゴミとなった中絶胎児」です。 ここでは、一般にあまり知られることの無い中絶胎児の供養について葬儀社、胞衣(えな)業者、そして(胎盤の処理を扱う)廃棄物処理業者に取材することに成功しています。「胞衣」というのは、胎盤やさい帯や羊膜(それに、12週未満の胎児も含む)のことを指します。 知っている方も多いと思いますが、胎児は基本的に法律上の「人」ではありません。しかし、12週以上の死胎(死産児&中絶胎児)は、墓地埋葬法の適用を受けるため死産届の提出が必要ですし、また、死体解剖保存法上も死体として扱われます。一方で、12週未満の胎児については(各自治体の胞衣条例を除いては)規定が無く、伊勢佐木クリニックのケースでは廃棄物処理法が問題となった訳です。 瀧井氏が取材した胞衣業者はそもそも出産を取り扱う病院としか(死亡胎児ではなく胎盤を処理する)契約が無く、中絶専門のクリニックは胎盤が出ないため処理が分からないと答えています。そこで、次に取材されたのが廃棄物処理業者なのですが、ここでは「契約上は12週未満の胎児や胎盤は扱って」ないが、実際に処理容器に何が入っているかは確認ができない、とのことでした。最後に、産科医に取材して、12週未満の場合病理検査を経て感染性廃棄物として処理されているとの言をとっています。 驚いたのはこの産科医への取材部分で、「厚生労働省のマニュアルでは、廃棄物の種類や性状等をマニフェスト伝票に記載し、処理業者に示すことが義務づけられているが、胎児の遺体が含まれていることを業者に示しているかどうか、とう点については事務担当者も知らなかった。」というところです。 これ、他の病院でも同じようなことがあるんでしょうか…?(知っている方が居れば、教えてくださいな) 瀧井氏は、これを聞いて、「病理検査がクッションとして入ることで、意思も中絶した女性も、そして廃棄物処理業者もさほど罪悪感を感じることがなく、胎児を感染性廃棄物として処理できる」のだと納得した、と記されていました。 個人的に「残念だな」と思ったのは、一般読者向けに「読みやすさ」を考慮されたためか、若干タームや記述に厳密さを欠くところです。 例えば、再生医学・医療を取材した第1章で、培養骨を含めた再生医療の課題として「ひとつは、医療機関がヒト細胞専門の培養施設を持たねばならないこと。(略)」などと書かれていますが、これは法律やガイドラインで「持たねばならない」とされているのと、あるいは技術的な問題で「持たねばならない」のとでは意味合いが大きく違ってきますので、どっちなのか分かるような記述の方が親切ではないのかなと思いました。 |
by vla_marie
| 2006-11-02 01:38
| 本
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