甲斐克則『医事刑法への旅Ⅰ[新版]』 |
雨が激しいので家で勉強しようと思ったら、隣が昼から飲んでるのか激しく笑い声が五月蝿いし壁は叩くしで…、いやはや参りました。。。 しょうがないので昼過ぎから市立図書館に移動して勉強…ふぅうう…。 甲斐克則『医事刑法への旅Ⅰ[新版]』(イウス出版、2006年)を読了。医事法分野に関しては、個人的に憲法や民法の側面から勉強してきたこともあり、自分にとっては結構面白いところが色々ありました。 全体の構成としては1〜3講が医療と刑法に関わる問題についての総則的な解説があり、4〜16講にはより各論的な解説が置かれています。 総則部分では、第3講がもっとも重要な部分です。 ここでは町野朔先生による、治療行為の刑法的意義について、「治療行為=医学的適応性+医術的適応性」という図式が紹介されています。 「医学的適応性」は手術などが行われるべきかどうかという問題に、「医術的適応性」は医学的適応性が肯定された場合にどのようになされるべきかという問題に対応するものとされます。故に、未だ確立していない手術療法を試す場合は医術的正当性がないため「治療行為」とは言えず、「臨床試験」とされます。 ここでは、「治療行為」はそもそも傷害罪の構成要件に該当するのか否かという問題が生じますが、傷害罪の構成要件に含む説を甲斐先生は採用されています(医者が行う行為のみを「傷害罪」の枠外に置くことは、「身分犯的な行為者類型を構成要件に持ち込む」ことになるため整合性に欠くことになる)。 しかし、治療行為の内容として薬剤投与などのケースにおいては外形的変更を伴わないために傷害罪の適用は困難であり、その意味で治療行為と刑法との間の問題の核心は「治療行為との関係で傷害罪の保護法益をいかに捉えるか」にある、とされます。そして、この保護法益は「一定程度の身体の完全性と生理的機能」の両方を解すべきとされます。 (これを踏まえた上で、)正当業務行為としての治療行為の適法化用件については、①「医学的適応性」+②「医術的正当性」+③「インフォームド・コンセント(IC)」の3要件があるとされています。 ①については、「疾患」の存在が前提とされるため、豊胸術やエステの美容整形術は治療行為とは言えず、「被害者の承諾」の理論によって処理がされるべき問題であるとされます。 ②については、確立していない新規療法は医学準則(レーゲ・アルティス)を欠くため人体実験や臨床試験の範疇に入るとされます。 ③については、従来の医療現場で唱えられてきたようなICを医師ー患者関係を円滑にするものと捉えるのは論外であり、また、患者の同意を治療行為の適法化要件として「手続的」に捉えるだけでも不十分だとされます。そこで、IC理論の本来的価値は「人間は人間としてのひとかたまりの肉体がそこにあるというそのことだけで、その存在自体を権利として主張できる。しかも、それは精神と全く別のものではなく、精神もそこにくっついているいわば実存につながる」ものとして捉えるべき、とする存在論的IC理論を展開されます(故に、身体から切り離された形で独自に自己決定権を刑法上の保護法益とすることに、甲斐先生は懐疑的)。 しかし、IC理論を巡る所謂「自己決定権万能主義」にも甲斐先生は否定的であり、「治療の枠を超えた患者の「無謀な」選択にまで、医療者は拘束されるものでない」とされ、メディカル・パターナリズムの許容される余地が残されている…とされています。 (尚、緊急の場合は緊急避難として承諾が無くても治療は適法化される。) この基本的な枠組みに従いつつ、第4講以下では具体的な事例を通して、医療と刑法との関係を論じる構成になっています。 内容的なレヴェルから言えば、刑法で用いられる基本的なタームや学説上の通説的な考え方は既に知っているものとして書かれています。ですので、全く法律を知らない方が手を付けると充分に理解することは困難でしょう。刑法未修者の方は、先に刑法の入門書を一読した方が良いかと…。 (医療過誤の問題については、本書は基本的に旧過失論に立脚しています。) 内容も新しく、脚注も(筆者曰く削ったとのことですが…)結構詳しく、この領域における法解釈学の勉強にはちょうど良かったです。 まぁ、生命倫理学の方面の方からは、法解釈学の限界を指摘されるかもしれませんが…。 さて、メモ書き。 6日〜13日頃にかけて、各紙で報道されていましたが、「消費者金融が債務者の自殺の保険金を受け取っていたケースが、大手5社で年3,600件」とか(朝日、読売社説、産経)。 形式的に借金の借り入れと生命保険と別々に加入するならばOKなのか?実質的に生命保険の加入を前提としてしか貸し出しがなされないのならば、そもそもそこが問題では…。 |
by vla_marie
| 2006-09-13 16:10
| 本
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